小説「名もなき毒」宮部みゆき

「普通」の人の持つ毒

「誰か」の続編です。
大手企業で社内報の編集に携わる主人公は、アルバイト女性の雇用に関するトラブルに巻き込まれます。
解決するために訪れた先で、連続無差別毒殺事件へと関わることに…。


普通の人が抱える闇。
誰しもが感じる、社会への矛盾。
日常の、普通の人たちの、普通の考え、気持ち。
そういったものを書いたとき、一番心に響く語り部が、この作者だと私は思います。

そういう意味で、このシリーズは宮部作品の中で異色でもあります。
なぜなら、主人公の境遇が普通ではない。
大企業の会長の娘婿となった彼は、普通の感覚を持ちながらも、異常な環境を生きています。
なにより、全能とも言っても過言ではない、義父の会長がいます。
どんなごたごたが起きたって、最後はどうにかしてくれる絶対的な存在なのです。
前作を読んだとき、この点が違和感でした。

しかし本作は、この会長の言葉に一番共感を覚えました。
「禁忌を犯してふるわれる権力には、対抗する策がない」
無力感。
それでも、たくさんのエピソードを絡めて、丁寧に答えを教えてくれます。

明るい物語ではないのですが、読み進まずにはいられませんでした。
そして、読後感は悪くありません。


名もなき毒Book名もなき毒


著者:宮部 みゆき

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小説「訪問者」恩田陸

珍しく、ちゃんとオチてる

古い洋館に住む、年老いた兄弟達。
一族には、近年、不可解な死を遂げた者達がいた。
そんな彼らに、様々な「訪問者」が、思惑を持って館を訪れる。
そして、事件が発生し―。


洋館と実業家一族を巡る、ミステリーです。
恩田先生の作品は、読んでいる最中は抜群に面白いものの、落としどころのとんでもないものが多く、
ミステリーとしては、それほど期待していませんでした。
とにかく、ページをめくっているのが楽しければよい、と。

しかし、この作品は、種明かしも納得。
綺麗にまとまっていて、最後まで味わい深い内容でした。
軽い推理モノが読みたいときに、おすすめの一冊です。


訪問者Book訪問者


著者:恩田 陸

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小説「「巨人-阪神」殺人事件」吉村達也

なつかしの選手が続々

現実のプロ野球試合を背景に、東京ドームで殺人事件が発生した―
…という設定の推理小説です。

別に野球選手が事件に巻き込まれたり、容疑者になったりするわけではなく、あくまで小道具です。
ただ、日本のプロ野球が、たくさんの人の生活の一部だった頃の、スリリングな試合が挿入されているのは、野球ファンにはたまりません。

1992年の実際にあった試合をBGMにしているので、桑田、亀山、原、パチョレック、緒方、岡田…。
懐かしい名前のオンパレードです。
それにしても、あの頃の「このままではプロ野球がだめになってしまう」理論は、いま論じられている内容とほとんど変わりませんね(笑)。
そのまま、ずるずると悪化してしまったのが、よくわかります。

ミステリーとしては、それほど難しいトリックではない気がしますが、ひねりが利いていて、最後はやっぱり驚かされました。
サラリーマンの悲哀も、今の時代に通じるものがあって、泣けます。
時代は繰り返しています。
ゆえに新鮮。ゆえに悲しき。

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小説「十津川警部 アキバ戦争 」西村 京太郎

十津川警部、秋葉原に現る

メイド喫茶の人気メイドが誘拐された事件を、おなじみ十津川警部が追うストーリーです。

「秋葉原」「メイド喫茶」「オタク」「つくばエクスプレス」と言ったキーワードを、他の観光名所同様、突っ込み過ぎない程度にうまく料理して、小説に仕上げたと言う印象です。
秋葉原に思い入れの強い人には物足りないかもしれませんが、誰にでも手軽に楽しめる作品と言えるでしょう。

ラストの事件解決が早足で、捜査の途中に浮かび上がった疑問が未消化のまま終幕。
その点だけ気になりましたが、楽しめました。

30代の、社会にもしっかりと根を張ったオタクのみを取り扱うという、無理をしない姿勢が好印象です。


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著者:西村 京太郎

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小説「殺人の教室~ミステリー傑作選~」

お手軽ミステリー短篇集。

2003年版推理小説年鑑から選ばれた、10編の短編集です。
作家は、宮部みゆき、奥田英朗、伊坂幸太郞、乙一…そうそうたるメンバーです。
それ故に既読の作品も数点ありましたが、いろいろな作風の短篇に出会えるお得な一冊でした。

特に良かったのは笹本稜平「犬も歩けば」と、緑川聖司「見えない悪意」。


「犬も歩けば」
やくざの愛犬探しを依頼された探偵の物語。
おふざけテイストで、口の悪い探偵の語りに笑ってしまいました。
登場人物達も個性的で楽しかったです(ダメな人ばかりですが)。

「見えない悪意」
ネットのメル友と実際に会うことで知ることになる真実。
後半の展開に驚かされました。
ぞくぞくする怖さがたまりません。


全体的にシリーズ物からチョイスされた作品が多く、体験版のような構成です。
日本推理作家協会の術中にはまっているような気がしますが、気になる作家をピックアップできたのが収穫でした。

殺人の教室 ミステリー傑作選 (講談社文庫)Book殺人の教室 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

著者:日本推理作家協会
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